Trademark Guide No.05

Use in Commerce : 商業上の使用

Trademark Basics
使用主義
 登録主義である日本や大陸法系の国々と異なり、アメリカでは商標の権利の取得に関して、使用主義が採られています 。登録主義においては、国家機関に対して登録の手続きを行い、国により商標の排他的使用の権限が与えられるのではなく、商標を最先に市場で使用している者に対して、商標権として、その商標に関する排他的権利を認めるというものです。 使用主義を初めとしてアメリカの商標の制度はコモンローとして発達してきたものですが、使用主義を採ることによる問題も多くあるため、各州法において、そして連邦においては法制定当初から、商標制度を円滑に運用することを目的として商標の登録制度が設けられいます。現在のアメリカにおいて、商標登録はビジネス上重要な役割を果たしています。しかし、商標の権利の獲得が商業上の使用の事実に基づくことには変わりはありません。
連邦法における「商業上の使用」
 Lanham Act §45には、以下のように”Commerce”(商業)、”Use in Commerce”(商業上の使用)が定義されています。
Commerce. The word commerce means all commerce which may lawfully be regulated by Congress.
Use in Commerce. The term “use in commerce” means the bona fide use of a mark in the ordinary course of trade, and not made merely to reserve a right in a mark.
 このように、Lanham Actにおける「商業」は、連邦議会が法制定権限を有する商業に限られます。連邦議会の法制定権限は、合衆国憲法第1編第8節第3項(Commerce Clause)に規定されており、外国との通商、複数の州間での通商、インディアン部族との通商、の規制に限られます。単一の州内でのみ行われる商業上の行為を連邦政府が規制することはできません。したがって、連邦法上の商標権の獲得には、複数の州で商業上の使用を行うことが必要となります。(Larry Harmon Pictures事件参照。)
 そして、商標法上の「使用」したと認められるには、通常の商業上の行動において善意でマークを使用することが必要です。商品商標の場合であれば、そのマークが商品に付され、かつ、その商品が商業上販売された場合に、使用されたということができます。
不十分な使用
 商標権を得るためには不十分な使用とされる態様の主なものとして、Token Use(名目上の使用)、Add-On Use(付加的使用)、Private Use(私的使用)があります。
 Token Useは、ごく少量の使用のことです。ITU(使用の意図)出願制度の導入前、登録に使用が要件であったことから、出願のために、商業上の使用とまではいえないが最低限の使用を行っていたという事情もあります。Lucent Information Management v. Lucent Technologies事件では、異議申立人が「使用」の証拠として1つのモデムの販売しか示しておらず、商標登録出願に対する優先権は認められませんでした。
 Add-On Useは、後から付加的にトレードマークを使用することによって優先権を得ようとするもので、善意の使用ではないという点でも問題となります。(Blue Bell v. Garah事件参照。)
 Private Useは、Non-Public Useともいい、消費者への販売など公然と使用しておらず、社内だけで使用している場合などを指します。(Blue Bell v. Garah事件参照。)
Pre-Sales Activity:販売前の行為
 消費者への実際の販売には至っていないものの、販売前の行為が商標権獲得に十分な商業上の使用であるとされることがあります。例えば、Shalom Children’s Wear事件では、展示会において問題のマークを付した商品の図面が展示されており、なおかつ顧客からの注文を受けた、ことによって、商標出願に対する優先権が認められています。
 一般的なルールとしては、ビジネスを行うため、またはマークを商業上使用するための単なる準備は十分ではない、とされています。
 9th Circuit(第9巡回区控訴裁判所)は、New West事件で、販売前行為が「商業上の使用」にあたるかのテストを示しています。そのテストは次の各要素を総合的に判断するというものです。
  1. 販売前の行為が真正でかつ商業的な性質のものであること
       (公然の販売に結びつくもの)  
  2. 販売前行為が、(商標となるべき)呼称を、適切な公衆に対して、十分に公然と、商品の出所が示されるような態様で使用したかどうか。  
  3. その商品の商業上合理的なマーケッティングと比較しての販売前行為の範囲  
  4. 販売前行為に続いての実際の販売においてマークの連続的な使用の程度  
  5. 販売前行為に続いての実際の取引の量  
 例えば、Maryland Stadium Authority v. Becker事件では、球場“Oriole Park at Cameden Yards”に関して、球場のオープン以前からその名称を用いて種々のプロモーション活動を行っており、球場のオープン以後に渡り引き続いて同じ名称を用いて営業、宣伝活動をしていたので商業上の「使用」にあたるとされ、球場のオープン前に“Cameden Yards”の名のついたTシャツを販売していた被告に対して優先権があると判断されています。
2/3/05
関連判決

Larry Harmon Pictures Corp. v. Williams Restaurant Corp., 929 F.2d 662 (Fed.Cir. 1991), cert. denied, 502 U.S. 823 (1991).

 原告Harmonが、被告出願人のレストランに関する“BOZO’S”というマークの登録に対して、異議申し立てをした事件。出願人はテネシー州Masonに1軒のレストランを所有している。 Harmonは、とりわけ、1軒のレストランの営業はLanham Actの意味における「商業上」の使用を構成しないので、登録は否定されるべきであると主張。
裁判所は、USPTO審判部の異議の却下の決定を支持する判決を下した。理由は以下のとおり。
 BOZO’Sレストランは、Memphisの住人に人気。新聞や雑誌もそのレストランの人気に言及している。州境を越えて来る顧客に対して行われるサービスは、1軒のレストランであっても、連邦法上の商業上の使用の要件を満たす。

Blue Bell, Inc. v. Farah Manufacturing Co., 508 F.2d 1260 (5th Cir. 1975).

 1973に2つの紳士服の著名な製造元(FarahとBlue Bell)が、外観が実質的に同一の商品に対しての同一なtrademark “Time Out” を作り出す。訴訟記録には、そのlabel(商標)のデザインと採用において悪意の存在を示唆するものはない。両者とも全国スケールで商品を売り出しており、同じ商標の共同利用は、購入する大衆に混乱を引き起こす恐れがあることについて同意。
 よって、唯一の問題は、どちらの当事者が、取引においてそのマークの先使用(prior use)を確立したか、にある。裁判所の判断は以下のとおり。
 Farahの7月3日の12人の各地区セールスマネージャーへのスラックスの販売と発送は、内部的な発送であって、公衆に対してなされておらず、商標の「使用」にあたらない。(Private Use)
 Blue Bellの7月5日の発送は、他の商標(Mr. Hicks)が付される商品に、Time Outのマークを付け替えたものであり、trademarkの権利を生じさせない。(Add-On Use、悪意の使用)
 よって、実際に顧客に対してTime Outの衣料の最初の注文を9月に発送したFarahがpriority(優先権)を有する。
2/3/05

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