Trademark Guide No.06

Concurrent Use: 同時使用

Trademark Basics
複数人による同一商標の同時使用
 商標登録主義の国では、登録によって全国を通じて商標を排他的に使用する権利が付与されるので、(審査のミスなどを除けば)同じ商品に関する同一の商標が複数の者に使用されることはありえません。しかしながら、 米国では、コモンロー上の権利である商標権は使用によって発生し、かつその排他権が認められる度合いが使用の範囲に依存するため、市場が全く重なることのない遠隔地同士、あるいは、マーケットの対象がかけ離れている場合、同一の商標が同一の商品に関して、異なる者によって同時に使用されていても消費者の混同などの問題が生じない場合があります。このような状況を、“Concurrent Use”(同時使用)と呼びます。
 例えば、ハワイのみに数軒の店舗を有するスーパーマーケット・チェーンと、コロラド州に数軒の店舗を有するスーパーマーケット・チェーンとが同一の店名を商標として使用していても、それぞれのチェーン店の顧客が重なっていることはまずあり得ませんし、一方のチェーンの広告を他方のチェーン店の顧客が目にする可能性も低いですから、消費者の混同の可能性はほとんどないでしょう。このような場合、両者にその商標の使用が認められることは自然なことですし、消費者の混同を防止するという商標法の趣旨から考えれば、法的にも適当と認められます。

同時使用の類型
  同時使用が認められる状況には、主に次の3つの類型があります。

1. 両当事者が、共に商標を登録していない場合

 コモンロー上、両者の使用が認められるには、1)遠隔使用であること、2)善意で商標の採択/使用をしていること、の2つの要件を満たしていることが必要です。 この状況では、両者が、かけ離れた地域で同一の商標を使用することが認められますが、後に一方が他方の地域に参入することがあれば、それを妨げることができます。
 >> United Drug事件

2. 両当事者が未登録商標を使用していたが、一方が後に連邦法上の登録をした場合

 これは、1の類型で同時使用が認められる状況から、一方が連邦法(Lanham Act)上の登録を行った場合です。この場合、登録によって、他方の活動(商標の使用)領域が、「凍結」されることになります。
 >>  Thrifty Rent-A-Car事件

3.一方の当事者が連邦法上の登録をしており、他者が後から使用を開始した場合

 連邦法上の登録は全国における権利の発生(使用)を擬制しますが、“Channels of trade”(商売の経路)がかけ離れており消費者の混同の可能性が低い場合に、例外的に同時使用が認められます。  >> Dawn Donut事件
2/9/05
関連判決

United Drug Co. v. Theodore Rectanus Co., 248 U.S. 90 (1918).

[Facts]
 Petitioner: United Drugは1877年にマサチューセッツ州で、Respondent: Theodore Rectanusは1883年にケンタッキー州Louisvilleで、それぞれ、同じ”REX”の商標を使用して医薬品を販売開始(ただし、医薬の種類は異なるもの)。Petitionerは、1912年にKentuckyに進出。
[Decision](最高裁の判断)
 CopyrightやPatentなどの制定法に基づく権利(Statutory Right)と違い、Trademarkは使用によって権利が生じるもの。Trademarkを採用することが、取引の拡張に先立って保護の権利を伸長することはない。また、マサチューセッツ州での登録が、Common Lawの原則を超えて、州外に権利を拡張することはない。同じTrademarkを、それぞれ異なるマーケットで使用していれば、それらの権利が競合することはない。
 よって、Petitionerのマサチューセッツ州での先使用は、Respondentのケンタッキー州での使用を妨げることはなく、両者は、混同がない地域的範囲内で、それぞれ同一の商標を使用して取引を行うことができる。

Thrifty Rent-A-Car System v. Thrift Cars, Inc. , 831 F.2d 1177 (1st Cir. 1987).

[Facts]
 Thriftyは、全国規模で自動車のレンタルを営んでおり、1962年にUSPOにサービスマークの登録の出願を行い、1964年7月に登録される。
 Thrift Carsは、マサチューセッツ州East Tauntonで、1962年から送り迎えつきの自動車レンタル業を行う。同州Nantucketでは、1970年から通常のカーレンタル業を営む。この新たなサービスが、Thriftyの商標権と衝突。
[Decision]
 (上述の)United Drug事件判決などで確立され、Lanham Actの§ 33(b)(5)に取り入れられた、“limited area” defense(「限定的地域」での使用の抗弁)により、後使用者が遠隔地で先使用していた場合、(1)登録より先に登録者の先使用を知らずにそのマークを採用したこと、(2)登録より先にマークを使用していた取引の範囲、(3)取引地域において連続的にマークを使用していること、を示すことにより、その地域での商標の権利が認められる。登録の時点で、後使用者は先使用者の使用の知識を得たと、法的にみなされるので、登録後の活動は善意の商標使用とはならない。
 この結果、被告の活動(商標使用)は、以下のように、登録前の活動範囲に制限されることとなった。
  営業地域 − マサチューセッツ州Tauntonのみ
  広告 − 1964年7月より前に使っていた新聞による広告のみ
 一方で、原告のThriftyも、このエリアに入ることを制限される。

Dawn Donut Co. v. Hart’s Food Stores, Inc. , 267 F.2d 358 (2d Cir. 1959).

[Facts]
 Dawn Donutは、ドーナツの素(Donuts Mix)を、”Dawn”の商標を付して卸売りしていた。さらに、小売店に対して、その商標でのドーナツの販売をライセンス。ニューヨーク州Rochesterから60マイル以内では、小売店に対するライセンスはしてない。
 Hart’s Foodは、ニューヨーク州Rochesterの45マイル圏内で食料品店を営業し、”Dawn”の名を使用してドーナツを販売。その使用開始は、原告の登録より後。
[Decision]
 裁判所は、マークの同時使用により生じる公衆の混同の可能性がないので、差止め命令の発行は認められない、と判断した。ただし、将来原告がその地域へ営業を拡大するのであれば、被告のマークの使用を禁止する資格があると述べた。
2/9/05

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