Trademark Guide No.07

Genericism: 一般名称化

Trademark Basics
Genericism: 一般名称化
 当初は商標として認識されていた用語が、時を経て、商品の出所を特定するものである商標としての機能を失い、商品自体の一般的な名称となってしまうことがあります。識別力のある商標から、Generic term(ジェネリック・ターム:普通名称、一般名称)になってしまうことから、Genericism(一般名称化)と呼ばれます。
 また、使用者はある用語を商標として使用する意図を有していたものの、最初からその用語が商標としての意義を有することはなかったと認識される場合もあります。いずれの場合にせよ、Generic termは、商品の出所(製造者)を示すという商標の機能を持たず、商品自体を示す用語となってしまった用語を示します。
 商標が一般名称となるGenericismの危険が高いのは、特に、それまでになかった新たな種類の製品に対する新しい商標を採用している場合です。例えば、”NYLON”(ナイロン)、”Dry Ice”(ドライアイス)、”TRAMPOLINE”(トランポリン)、”ESCALATOR”(エスカレーター)、”YO-YO”(ヨーヨー)などは、全て元は商標であったのが、同種の製品の普通名称(一般名称)となってしまったものです。
 一方、”XEROX”、“KLEENEX”などは、一般消費者がそれらを一般名称であるかのように使う例が多く、それぞれの企業はこれらの商標としての価値を失わないよう、消費者教育のための広告を用いるなどの努力を続けています。例えば、会社でコピーを頼むときに、”Can you xerox this?”などと頼んでしまう例がありますが(それがXEROXのコピー機であってもそうでなくても)、これは、その人が”xerox”という語を、”photocopy”と同義の動詞(あるいは「コピー機」の総称)として認識しているわけです。Xerox社は消費者教育のための広告で、”There is no such thing as a xerox.”などと、消費者に対しXeroxを普通名称として使用しないよう呼びかけています。
 上記の例のように、名称を「動詞」としてまたは「名詞」として使用するのは商標として適切な使用方法ではなく、一般化の危険を増長することになります。商標としての正しい使用は、「形容詞」として使うことです。 Kleenexは、ただ”Kleenex”とブランド名を表示するのではなく、”KLEENEX brand facial tissue”(クリネックス・ブランドのティッシュペーパー)というように表示し、消費者に対してブランド名としての使用であることを強調しています。
 また、他の文字、文などの表示と比較して、商標名は目立つように表示する、というようなことも、適切な商標の使用かどうかの判断に影響を与えます。
 一般名称化のテストとしては、Bayer事件で示されたPublic Perception(公衆の認識)テストがよく用いられます。これは、関連する公衆である消費者は、その「用語」が何を意味すると理解しているか、を見るもので、その用語が(1)製品の一般名称であると認識しているか、2)出所を表示するもの(商標)として認識しているか、が問題となります。
 このような公衆の認識を実際に示すには、顧客に対する(アンケート)調査が証拠として用いられます。訴訟当事者が、対象となる顧客(の一部)に対してアンケート調査などを行い、大多数の顧客がある用語を一般名称として認識しているか、あるいは商標として認識しているかについて調査結果を出し、これを証拠として法定に提出します。このような調査結果が用いられた典型的なケースとしては、Thermos事件があります。
5/30/05
関連判決

Bayer Co. v. United Drug Co., 272 F. 505 (S.D.N.Y. 1921).

Bayer事件
 Bayer社はアセチルサリチル酸に関する特許を有しており、これを”Aspirin”(アスピリン)の名前で医薬品(鎮痛剤)として長年販売していた。United Drug社はBayer社の特許が切れた後にアセチルサリチル酸の販売を開始したが、ただ単に同種の医薬品を販売するというだけでなく、それを”Aspirin”の名称を用いて販売。Bayer社によるコモンロー上の商標権侵害の訴えに対して、United Drug社は、”aspirin”がこの医薬品の一般名称となっており、誰でもその医薬品を製造、販売できるだけでなく(特許が切れているため)、公衆がその商品を知るようになった名前(一般名称化した呼称)で呼ぶことができると反論。この点が法廷における争点となった。
 判事は、対象となる顧客を薬剤師・医師などのバイヤーと一般消費者とに分けて、証拠を分析。バイヤーに関しては、大半が、この薬品が”acetyl salicylic acid”(アセチルサリチル酸)として特定されるものであり、”Aspirin”はBayer社の提供するこの薬品の名称(商標)であると認識していると認定。一方、”Aspirin”の名称を使っての販売が当初処方薬としてのみで一般消費者に対して直接販売しておらず、後に他の製薬会社が、この薬品を(会社名+”Aspirin”)などの名称を使って一般消費者向けに販売をしていたことなどから、大多数の消費者にとっては、”Aspirin”という名称によって製薬会社を特定しようがなかった。すなわち、一般消費者はこれを薬品の一般名称と認識しており、商標としては認識していなかった。また、判事はBayer社がAspirinを商標として明確に認識されるような形で使用していなかったこと、可能であったにもかかわらず消費者に対して商標に関する教育を施さなかったこと、などについても言及している。
 これらの認定に基づき、判事は、バイヤー向けには”Aspirin”は商標としての機能を失っていないため、引き続きBayer社が排他的にこの商標を使うことを認める一方、一般消費者向けには一般名称となっており、他社も自由にこの名称を使えるという、一部勝訴、一部敗訴となる判決を下した。

King-Seeley Thermos Co. v. Aladdin Industries, Inc., 321 F.2d 577 (2dCir. 1963).

Thermos事件
(*Thermosは日本で言うところの魔法瓶で、ステンレスの2重層間を真空にして断熱した保温用容器(ジャー、水筒)。)
 King-Seeley Thermosは、”Thermos”という言葉に関する8つの商標登録を保有。被告のAladdin Industriesは、自身の真空断熱容器を”thermos bottles”という呼称で販売することを計画。Aladdin社はこの用語が一般名称であると認識していた。原告King-Seeley社は、Aladdin社がこの用語の使用禁止などを求めて、訴えを提起。被告は、”themos”という用語は英語において「真空断熱」容器と同義の一般的な記述的用語(’a generic descriptive word’)になっているとして、商標登録のキャンセルを求めて反訴。
 地裁の事実認定によれば、King-Seeleyの”Thermos bottle”に関する公衆向け広告キャンペーンは、”thermos”をその出所を表示するものでなく製品を記述する一般的な用語とする効果を有していた。その後のKing-Seeleyによる商標監視の努力は商取引の範囲内では成功したが、公衆の認識を変化させるのには失敗している。
 被告の要請によって行われた顧客調査の結果は以下のとおり:
・合衆国の成人で内容物を熱く又は冷たく保つ容器を良く知っている者の約75%が、このような容器を”thermos”と呼んでいる
・アメリカの成人のうち約12%は”thermos”が商標としての意義を有していることを知っており、約11%が”vacuum bottle”という用語を使っている
 裁判所は、この調査結果を他の証拠から導かれた結論の一般的な補強証拠であると述べているが、他の証拠も、12%よりは少し大きいが少数の者が”thermos”の商標としての意味に気づいており、11%よりは少し大きい数の者が”vacuum bottle”あるいは他の記述的な用語を使用している、ことを示していた。
 このように、大多数の一般消費者は”thermos”を一般名称として認識しているが、原告の商標は有効であり、少数ではあるが認められる程度の部分の一般消費者は被告の商標を認識していることから、地裁は、被告に対して”themors”という用語の使用に関して所定の制限を課す判決を下し、これは第二巡回区控訴裁判所でも支持された。
5/30/05

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